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電気再生装置の基本
私は Billie Holiday が活躍した時代、1930年代〜1950年代のレコードを集めて再生しています。私にとっての Jazz はまさにこの時代なのです。
初出のオリジナル盤を集めることも楽しみですが、当時の再生装置でそれらを再生するのも又楽しみです。
この時代は 78rpm(SP) と LP が入り交じった時代でその装置もそれぞれに適したものを用意しなくてはなりません。
SP と聞くと蓄音機と思われるかも知れませんが、1930年代はもうほとんどの SP が電気吹き込みになっていました。材質もシェラックからビニールへ変化して行きます。
電気吹き込みのビニール盤は蓄音機でかけてしまうと、一回で駄目になります。電気再生の SP 用カートリッジの針圧は 7-15g前後なのに対し蓄音機の針圧は 150g前後もあります。これではミゾをつぶしてしまいます。

アーム

SP は LP に比べ大きな針圧で、しかも倍以上の早さで回るレコード盤をトレースするわけですので、その振動たるやLP再生の比ではありません。また、軽針圧ではちょっとしたソリやキズでも飛ばされてしまいます。
LP用のアームはパイプ形状のものが多いようですが、SP用は板状のもの、支点もオイルダンプが振動に強いといわれます。

Gray 108画像の説明
Gray Reserch 108 Viscous Damped Transcription 15inch Arm

カートリッジ

方式は色々ありますが、やはりカンチレバーがパイプではなく板状のものが良いように思います。
MC型の代表のような Ortofon の一連の商品、チップ交換の簡単な GEバリレラ等色々と選べます。
針先の太さを表すのに米国では mil (ミル)という単位を使います。これは 1/1,000インチです。
(同様に以前は 1/1,000 mmを表すミクロン(μ)という単位も使われていましたが現在はマイクロ・メーター(μm)に統一されました)

1 inch ≒ 25mm
1/1,000 inch ≒ 0.025mm
1 mil ≒ 25μm

そしてこの「太さ」とはチップの先端カーブの半径(Radius)を指します。

グルーブ(音ミゾ)との関係などは次の図をご覧下さい。
SP を 1 milチップでかけると底を擦ってしまうことがお分かりいただけるでしょう。
蓄音機の鉄針が 0.06mm (2.4mil) というのは意外ですね。ここから放送局のトランスクリプション盤用は 2.5mil ということになったのかも知れません。

groove

  • Ortofon
    Ortofonの単位はmilを使わずμm(マイクロ・メーター、1/1,000,000 m)を使います。
    針先は 25μm から 95μm まで用意されています。
    適正針圧は A タイプが 7-15g (LPは7g)に対しパイプカンチレバーの C タイプは 3-10g (LPは3g)。
    画像の説明画像の説明画像の説明AD画像の説明

    Type ADはチップが2個付いていてカートリッジを傾けてLPとSPを使い分ける。


  • GE
    バリレラ (Variable Reluctance) の愛称で親しまれています。現在でも新品のチップが入手可能で交換も自分で簡単にできます。
    シングルとトリプルとがあり一個で SP も LP もというときはトリプルが便利。
    放送局のトランスクリプション用として、2.5mil チップやカートリッジも PRX046 と 047(トリプル)が用意されています。
    チップはダイヤ・サファイヤ、1、2.5、3 mil のそれぞれあり、色分けされています。
    画像の説明画像の説明画像の説明画像の説明


EQ (Equalization)

電気録音で低音をそのままの振幅でミゾに彫り込もうとすると隣のミゾを浸食してしまします。また高音は振幅が小さすぎて雑音に埋もれてしまいます。そこで、盤の溝を掘るときにそれぞれ一定の基準で低音は控えめに高音は拡大した信号で彫ってやります。それを再生するときにそれぞれ反対の特性で元に戻してやろうというのが Equalization(等価)とか Compensation(補正)とかいわれる作業です。
そのため、レコードを再生するときにはフォノ・イコライザーが必要になります。これはカートリッジがレコードのミゾから拾った変形された信号を元に戻す装置です。
現在ではフォノ・イコは統一された RIAA (Recording Industry Association of America) の規格 Turn Over : 500, Roll Off : -13.7 で還元するというのが当たり前になっています。
しかし、1955年頃以前に電気録音された SP は勿論、LP も RIAA 規格以外の特性で録音されたものがほとんどです。
まずはここを押さえなければオリジナル盤も高価なオーディオ機器も本領を発揮できません。

1955年といえばモダン・ジャズの時代です。Blue Note の LP でも RIAAカーブで EQ したのでは本来の音とはかけ離れてしまう場合もあるわけです。

私が虎の巻にしているのは HOW TO EQ OLD RECORDS ですが、当時のプリ・アンプ、例えば McIntosh の C8 付属のマニュアルなどが参考になります。
McIntosh C8画像の説明画像の説明C20C8+C8S

McIntosh C20 & C8+C8S



これは Rec-O-Kut の Re-Equarizer という一度 現代のフォノ・イコで RIAA カーブに変換されたものを再度逆 RIAAカーブでフラットにしてから、それぞれの EQ カーブを作るという変則 EQ 付属の資料。
この Re-Equalizer はスルー機構もあるので、普段使っているフォノ・イコの後に接続して使えるので非常に便利。
しかし、接点が増えることを嫌うとか、そもそも邪道であるという意見もある。
Re-Equarizer